小夜啼鳥が愛を詠う

その日、玲子さんはとても穏やかなお顔をしていた。

「玲子さん、幸せそう……。」

今までの玲子さんなら、そんな風に言おうものなら、そこまで拒否らなくても……ってぐらい反発したと思う。

でも、心から幸せそうで……よかったぁ。
ママが見たら、それだけで泣いちゃいそう。

「まだ具体的には何にも進んでないけどね。……昨日早速、御院さん、猊下に面会を申し入れてくださったんだけど、昨日からご出張されてるんですって。」

「猊下って……坂巻孝義さん?お忙しいんだ……。」
光くんは懐いてるけど、正直、私は怖かったヒトだ……。

「そりゃ、世界中に支部のある宗派のトップですもんね。……ねえ?もし本当に清昇くんが養子に行くことになっちゃったら……清昇くん、大変よね……。」

既に母親気分らしく、玲子さんは不安そうにそう言った。

「うん。……でも、坂巻さんに子供ができなかったらの話でしょ?」

そう聞いてから、ふと気になった。

「玲子さん玲子さん。もし坂巻さんのお子さんが女の子だったら、どうなるのかしら?女の子が次の猊下になるの?……婿養子?」

「ん?んんん?ん~?……婿養子な気がする。でも、女の子でも、清昇くんはセーフよね?歳が離れ過ぎだもん。」
 
2人でそんな話をしてると、いつの間に来たのか御院さんが咳払いした。

「御院さん!おはようございます。」

慌ててそう挨拶したら、御院さんは柔らかくほほ笑んでくださった。

「おはようございます。……そのぉ、清昇のことを心配してくれはるんは、ありがたいことやけどな……他人様が聞いたらあらぬ誤解を与える可能性もある微妙な話やから、あんまり話題にせんといてくれはりますか?……なるようになるやろうし。」

私ではなく、玲子さんを窘める御院さん。

玲子さんは素直に
「はぁい。ごめんなさい。」
と謝った。

……ほんと、別人。



その日は、簡単な寺務仕事を教わりながら、参拝客の受付対応を見学し、お茶出しを手伝った。

10時半には、お茶とお菓子を準備して、外回りのボランティアさんへと持って行く。

ゴミどころか、落ち葉の1枚も見逃さないほどにきっちりしたお掃除隊に混じって、藤巻くんと薫くんも元気いっぱいに働いていた。