「光くん。とりあえず教室入ろうか。終わったらすぐに行くから。ね。」
廊下でそう諭して、光くんの教室へ送り届けた。

「さっちゃん。あとでね。」
戸口でそうは言うものの、光くんは私の手を放さないし、涙目になってしまっていた。

うわぁ。
きっついわ、この状況。

そりゃ、一緒にいたいよ、私も。
でも、クラスが違うんだもん。

「光くん。お式にはママも来るの?」

それは、伝家の宝刀だった。
途端に光くんの目が輝いた。

「うん。あーちゃん、会社抜けて来てくれるって。」

うれしそうにそう言う光くんに、私は敢えての笑顔でたたみかけた。

「じゃ、一緒に写真撮ろう。泣いた目、してたら、ママが悲しまはるよ?」

光くんの表情が、さっと改まった。
「そうだね。さっちゃん。ありがとう。」

泣くのをこらえてるんだけど、目尻がまだ光ってるわ、光くん。

後ろ髪を引かれたけど、チャイムが鳴り、教師が各教室へとやってきた。

限界!

「また来るね!」

そう言って、光くんのすがる瞳を振り切って、私は自分の教室へと戻った。

「こら!廊下を走るな!」
すれ違う教師に怒られる。

「すみませーん!」

……やばいな。
思ってた以上に、光くんのお世話は大変かもしれない。



飛び込んだホームルームには、既に担任がいた。

「……鞄ほっちからして、どこに行っとったんや?不用心だぞ。」

穏やかな優しい声。
でも、お顔は……すみません……冴えない中年の子デブ……てか、はっきり不細工。

ハズレ、って気分で、慌てて席に着いた。

ガタガタッと、周囲の女子が、音を立ててあからさまに私から机を離した。

……また、か。
入学早々、私は女子の不興を買ってるようだ。


ツンツンと、背中をつつかれた。
びくっとして、恐る恐る振り返る。

と、見覚えのある女子だ。

同じクラスになったことはないけど、比較的好意的な反応を示してくれていた数少ない女子。

えーと、名前は……
「椿さん!同じクラス、初めてね。」

そうだ、椿さんだ。
綺麗な姓にふさわしく、椿さんは白くて手足がすらりと長い綺麗な姿態の麗人だ。

「よろしく。……古城さんの彼氏?めちゃ噂になっとーで?」
椿さんは気遣わしげにそう言った。

そうか。
今までのように、単に容姿をやっかまれたり、男子の人気を妬まれるだけじゃなくて、光くんの存在もまた、私の立場を悪くするのか。