中学校の門には「入学式」の看板が建てかけてあった。
真新しい制服の新入生が、家族や友達と写真撮影してる。

私も光くんと、後で撮影しちゃおーっと。

ウキウキしてたら、何だか周囲に変な空気を感じた。
……桜色の浮かれた空気。

どうやら、周囲の男子の視線を集めてしまってるらしいことを自覚して、私はうつむいて足を速めた。

パパの心配は、決して親馬鹿じゃない。
確かに私は……もてるらしい。

こんなこと自分で言うべきじゃないし、自慢に思うことでもないとママによく怒られるんだけど、しょっちゅう告白されるのは事実だ。
もちろん、全て、きっぱりはっきりお断りしてる。

だって、私には好きなヒトがいる。
光くんしか、眼中にない。
何年たっても、それは変わらない。


再び、空気が変わった。
いや、今度はあからさまに感嘆の声が挙がった……女子の。

そして、近づいてくる軽やかな足音。
何事かと振り返ると、息を弾ませて光くんが駆け寄ってきた。

「さっちゃん!」

朝っぱらから、輝く笑顔で!

しかも、光くんは私の腕をぎゅっと掴んだ!
びっくりしたけど、その指が震えていた。

……怖がってる。

光くん、知らないヒトがいっぱいで、怖いみたい。

そりゃそうよね。
3年間通っても、こっちの小学校に馴染めなくて……薫くんと空手道場の生徒以外に話せるヒトもできなかったらしい。

この中学校は区内の3つの小学校からの生徒が集まってくるのだ。
光くんにとっては、3倍の恐怖なんじゃないかな。

よしよし、と頭を撫でてあげたい気分。

……できないけど。

頬が熱い。
ごめん、光くん。
かわいそうだとは思ってるのよ。

でも、私……光くんに頼りにしてもらって……めちゃめちゃ浮かれてる。
ドキドキする。
うれしくてうれしくて、飛び上がっちゃいそう。

私は完全に有頂天だった。

……早くも、かなりの数の女子を敵に回したことには、気づきもしなかった。




残念ながら、光くんとは別のクラスだった。

あーあ。

ガッカリしたけれど……光くんの落ち込みっぷりを見たら、何だかまた浮かれてしまった。
大好きなヒトにこんなにも求められるなんて、ほんっとに夢みたい。

でも、現実はけっこう大変だった。

光くんは、自分の教室に入らず、私にくっついてきた。

こらこら。
さすがにそれは、まずいよ。