小夜啼鳥が愛を詠う

「そんなつもりはない。……けど、悪かった。」


坂巻さんは、一応謝ったらしい。

でもすぐに、やっぱり御説教モードで諭された。


「金も社会的地位もあるけど、自由はない家や。惚れた男との逃避行に失敗して、閉じ込められたぐらいや。しかも惚れた男が死んで、好きでもない男の子を身ごもって、悲観して自殺したそうや。世俗的に恵まれてはるようでも、本人的には、幸せとは程遠い。いずれにせよ、一見だけの印象でそのひととなりを決めつけるもんじゃないな。」


「……はい。……おつらい……日々だったんでしょうね。」

さすがに重すぎて、ぐっときた。


……泣きそう。


しょんぼりしてる私とは対照的に、光くんママはしゃんとして坂巻さんに尋ねた。


「そのかたが成仏?……楽になられたきっかけって?差し支えない程度に教えてもらわれん?参考までに。」


参考?

今後の彩瀬さん対策かしら。


坂巻さんは苦笑した。

「まあ、言えない部分は省略して、俺なりに理解してる要因は、結局のところ妄執を捨てたこと、ですかね。昔はずっと嘆いて淋しがって、いない男を求めて泣いていた。固執し過ぎて、自分のことも、事のあらましも忘れてたそうです。俺と話してるうちに、悪いことだけじゃなく、いいことも思い出したゆーてました。……さっき小門さんがおっしゃってた感謝の心が我執を霧散させたんやと思います。」


そのまま坂巻さんは目を閉じて、ぶつぶつと念仏を唱えた。


感謝……。


「そう。ありがとう。坂巻くん。……光。次に彩瀬が顔を出したら、そう言ってやって。」

光くんママはそう言うと、すっくと立ち上がった。


いつもの光くんママだ。


「ヤクザの恋人が子供の父親じゃないことは確定なのよね?……やっぱり、根気強く、顧客リストが出てくるのを待つか。」


え!

まだまだ探すつもりなの?

さすがというか、何というか……光くんママだわ。



光くんママは、せっかくだから登り窯の火も見せてもらいたい、と朝秀先生のアトリエを出て行った。

当たり前のように、光くんはついて行く。


「……てか、あいつ、父親の降臨してへんときでも、マザコンやん。あれは、直らんな。」

坂巻さんが呆れてそう言った。