小夜啼鳥が愛を詠う

困惑する私達の中で、薫くんだけが嬉しそうに言った。


「ええやん。いつでも遊びに来たら。」


いつでも……ってわけにはいかないんですけど。


「光くん……大丈夫?」

何がどう大丈夫なのかよくわからないけど、そう聞いてみた。


光くんは、なぜか肩をぐりぐりと回しながらうなずいた。


……やっぱり幽霊は肩に座るから……肩が凝るのかしら。


「うん。ありがとう、さっちゃん。……ほら。受験前に京都にお能を観に来たの、覚えてる?……あの時の能楽師さんもね、毎回じゃないけど、舞ってると何かが憑依するんだって。だから、教えてもらったんだ。イロイロ。」


イロイロって……とり憑かれる者の心得ってこと?


意味がわからないわ。


でも坂巻さんはもっともらしくうなずいた。


「まあ、仲よぉできるんやったらいいんちゃうか。……ゆーても、お前の実の父親やねんろ?守護霊やと思っといたらええわ。」

「守護霊は、乗っ取らないけどな。」


ボソッとつぶやいた朝秀先生は、見る影もなく落ち込んでいた。


てか、床にしゃがみこんでるし。


「何やってんねん。お前。」

坂巻さんがあきれたような目で朝秀先生を見下ろす。


よく見ると、朝秀先生は涙ぐんでいた。


何で!?


「……だってさ。かわいそうやん。扇屋の彩瀬さん。ヤクザとは言え惚れた男がいるのに、不特定多数の男に抱かれてさ、閉じ込められて、自分で指切って死ぬなんてさ……もう自殺やん。それ。」


確かに憐れだけど……泣くほどって……。


一瞬ぽかーんとしたけど、そういえば、朝秀先生は扇屋の彩瀬さんの絵が初恋だって言ってたっけ。

感受性豊かというよりは、思い入れが強いのだろう。


「南無阿弥陀仏。だから、高子(たかいこ)さま、同情したんやろ。あの人も不幸な人生やったから。」


「……朗らかに見えました。装いも豪華だったし。」

ついそう口を挟むと、坂巻さんは私をじろりと見た。


こ、こわいっ!

余計なこと言うんじゃなかった……。


明らかに怯えた私を、薫くんが力強く支えてくれた。


坂巻さんは、淡々と言った。

「昔はずっと泣いてはった。不幸な地縛霊が成仏して楽しそうな浮遊霊にならはったんや。……桜子は、金があれば幸せか?」


ううう。

怖い。

怖いよ、坂巻さん。


どうしよう……。

御説教されちゃいそう。


「もう。孝義、意地悪。ストレス溜まってるんやろけど、桜子ちゃんに当たるなよ。」
朝秀先生が、そうかばってくれた。