坂巻さんは光くんママの真正面に立った。
「俺も詳しくは知りませんし、聞きかじっただけで裏付け調査はしてません。話半分で聞いてください。」
「……わかった。調べるのは、時間かかっても私がやる。」
光くんママはそう言って、まだ顔色も悪いのに、背筋を伸ばした。
坂巻さんと光くんママは、強い眼光を放ちながら対峙しているように見えた。
「……なんか、威嚇し合ってる動物みたいやな。」
朝秀先生のつぶやきがツボで、ちょっと笑ってしまった。
「あー。あーゆー好戦的なん、光の好きなタイプかもしれんな。似てるかも。」
背後から薫くんがつぶやく。
確かに、自然体で偉そうなところが似てる?
なるほど……。
「小田桐は、うちの宗派の僧侶でした。林業とスキー産業で裕福な山村を管轄してるけっこう大きい寺の跡取りで、系列大学に通うために京都に家を借りてたそうです。絵ぇ描くだけじゃなく、トランペットも得意やったらしくて、御所や鴨川でよく吹いてたそうですわ。二十歳になった祝いやと友達に連れられて赤線に足を踏み入れて、扇屋の彩瀬という遊女を見つけてしまった。……彩瀬は、小田桐の実家の寺の元檀家の娘の『あや』やったそうです。あやの親父さんは枝打ちしてる時に、木から落ちて脊髄損傷してしもて、たちまち一家は収入を失い、山を売り、家を売り、娘を売った。……よくある話ですわ。」
坂巻さんは淡々と話していたけれど……充分ヘビーだわ。
よくある話だなんて、とても思えない。
「小田桐は、郷里にいた頃からあやに好意を抱いていたらしい。仕送りはもちろん、当時有名やった三条のクラブで演奏して得た金もつぎ込んで彩瀬の時間を買うてたらしい。件(くだん)の絵ぇは、その時に描いたもんやろ。まあ、小田桐の片想いやったみたいですけど。」
片想い!
「じゃあ、彼女には他に好きな男がいたの?……誰かわかる?」
光くんママの声が少し緊張してるのがわかった。
「……遊女やから、どこまで本気なんかわからんのですわ。けど、彩瀬にはあまり性質(たち)の良くないヤクザの恋人がいたそうです。商売柄しかたないことやのに、恋人以外の男の子ぉを妊娠したことを理由に、男は彩瀬を捨てようとした。同じ頃、彩瀬の身請けの話が進められた。豪商の隠居で、腹の子ごと引き受けることになってたのに、彩瀬はヤクザに狂ってしもてたから逃亡を図って、当然のように失敗。仕事の時以外は座敷牢に閉じ込められたそうです。しかも、身請け直前に隠居が死んでしもて。失意の彩瀬は、ますますヤクザの恋人に依存して、すがって……出産のあと、ヤクザへの愛の証に送り届けようと自分の指を切り落としたそうです。でも、ちゃんと手当てせんかったんと、産後で体力が落ちてたからか、破傷風で死んでしもた、と。」
「俺も詳しくは知りませんし、聞きかじっただけで裏付け調査はしてません。話半分で聞いてください。」
「……わかった。調べるのは、時間かかっても私がやる。」
光くんママはそう言って、まだ顔色も悪いのに、背筋を伸ばした。
坂巻さんと光くんママは、強い眼光を放ちながら対峙しているように見えた。
「……なんか、威嚇し合ってる動物みたいやな。」
朝秀先生のつぶやきがツボで、ちょっと笑ってしまった。
「あー。あーゆー好戦的なん、光の好きなタイプかもしれんな。似てるかも。」
背後から薫くんがつぶやく。
確かに、自然体で偉そうなところが似てる?
なるほど……。
「小田桐は、うちの宗派の僧侶でした。林業とスキー産業で裕福な山村を管轄してるけっこう大きい寺の跡取りで、系列大学に通うために京都に家を借りてたそうです。絵ぇ描くだけじゃなく、トランペットも得意やったらしくて、御所や鴨川でよく吹いてたそうですわ。二十歳になった祝いやと友達に連れられて赤線に足を踏み入れて、扇屋の彩瀬という遊女を見つけてしまった。……彩瀬は、小田桐の実家の寺の元檀家の娘の『あや』やったそうです。あやの親父さんは枝打ちしてる時に、木から落ちて脊髄損傷してしもて、たちまち一家は収入を失い、山を売り、家を売り、娘を売った。……よくある話ですわ。」
坂巻さんは淡々と話していたけれど……充分ヘビーだわ。
よくある話だなんて、とても思えない。
「小田桐は、郷里にいた頃からあやに好意を抱いていたらしい。仕送りはもちろん、当時有名やった三条のクラブで演奏して得た金もつぎ込んで彩瀬の時間を買うてたらしい。件(くだん)の絵ぇは、その時に描いたもんやろ。まあ、小田桐の片想いやったみたいですけど。」
片想い!
「じゃあ、彼女には他に好きな男がいたの?……誰かわかる?」
光くんママの声が少し緊張してるのがわかった。
「……遊女やから、どこまで本気なんかわからんのですわ。けど、彩瀬にはあまり性質(たち)の良くないヤクザの恋人がいたそうです。商売柄しかたないことやのに、恋人以外の男の子ぉを妊娠したことを理由に、男は彩瀬を捨てようとした。同じ頃、彩瀬の身請けの話が進められた。豪商の隠居で、腹の子ごと引き受けることになってたのに、彩瀬はヤクザに狂ってしもてたから逃亡を図って、当然のように失敗。仕事の時以外は座敷牢に閉じ込められたそうです。しかも、身請け直前に隠居が死んでしもて。失意の彩瀬は、ますますヤクザの恋人に依存して、すがって……出産のあと、ヤクザへの愛の証に送り届けようと自分の指を切り落としたそうです。でも、ちゃんと手当てせんかったんと、産後で体力が落ちてたからか、破傷風で死んでしもた、と。」



