朝秀先生は、絶句してしまった。

代わりに反応したのは、坂巻さん。
ぶぶっ、と、吹き出し笑いをしてから、朝秀先生を指差してゲラゲラと笑い始めた。

「……孝義。笑うな。余計なこと言うな。何も言うな。」
朝秀先生が憮然として、坂巻さんにそう釘を刺した。

でも、坂巻さんは容赦なかった。

「笑うわ。いっつも決定的に振られんように距離を調節してきた春秋が、何もせんうちに玉砕やて。やー、さすがやな。桜子。ぼーっとしてるようで、頭も勘もよかったもんな。」

……呼び捨て。

偉そう!

誉められても釈然としないけど、とりあえずご挨拶した。

「はじめまして。古城桜子です。」
「いや。はじめてちゃうで。昔、逢うたん、覚えてへんか?……桜の園遊会の時や。」

……あ……前にもそんな話してたっけ。

ハッキリ言って、桜が綺麗だったことと、光くんと薫くんと遊んだことしか覚えてない。
確か、お城みたいなきれいなお部屋で、優しいおばさんと、たくさんの子供達がいた……かな?

「そうでしたか。失礼いたしました。ごめんなさい。あまり覚えてません。あれ、どこの桜だったんですか?夢のように綺麗だったような……。」
「……友達の家や。まあ、京都には他にもなんぼでもきれいな桜あるで。うちにも銘木あるわ。観に来たらいいわ。光も来るけ?」
「はい!行きますっ!」

ああ……光くんのお尻にぶんぶんと大きく振り回してる尻尾が見える気がする……。

坂巻さんは満足そうにうなずいた。


朝秀先生のアトリエに移動すると、光くんママが青い顔で床にへたりこんで座っていた。

「あーちゃん!」
パタパタと光くんが駆け寄る。

「あー。光。気持ち悪い……。外の空気吸ってくる……。」

光くんママはそう言って、光くんの肩につかまって、立ち上がった。

「あーちゃん。大丈夫?僕も行く!」

光くんは、ママを支えるように気遣って、アトリエの外へと出て行った。

「大丈夫ですか?たいがいの薬は常備してるんで、言うてくださいねー。……どうしはってんろ?食あたり?」

首を傾げる朝秀先生に、収納室から顔を出した薫くんが言った。

「すんませーん。ちゃうねん。絵ぇに描かれてる彩瀬おじさんが、おか……母の知っとー顔じゃないゆーて、しゃがんでしもてん。」

「……どういう意味?」

朝秀先生はますます理解できないようだ。