薫くんはニッと笑った。
「モノによるな。それこそ、新しい発想で賞とってるようなんはあんまり好きちゃう。変わってて使えへんもんは、作家の自己満足やろ。」

「薫くん!」
慌てて薫くんの舌鋒を止めた。

でも薫くんは、しゃあしゃあと言ってのけた。
「使えな意味ないやん。ちゃんと使い勝手がよくて美しいのが好きや。青い細かい細かい模様のんも好きやけど、桜子に似合いそうな花とか鳥とかが好きや。」

……なぜか最後に、私に笑顔を向けた薫くんに、私も、朝秀先生のお兄さんも、ちょっと笑ってしまった。

ぶれないわ……薫くん。

「青い細かい細かい模様のんは、祥瑞(しょんずい)言うんや。……そうかぁ。桜子ちゃんに似合ううつわ……せやな、花鳥風月が映えそうやなぁ。」

そう言ってから、お兄さんはふと思い出したように言った。

「そういや、野木ちゃん?彼女の絵付けも、そんな感じやな。桜と」
「ストーップ!先生、ダメッ!出来上がるまで、内緒っ!」

慌てて野木さんが止めに来た。

……でも聞こえちゃった……桜を描いたんだ。

「……さくら女(じょ)……。聞こえた?」

野木さんの頬が少し赤い。
私はぶるぶると首を横に振った。
隣で薫くんが、鼻で笑った。



「桜子も嘘つくんや。」

希望通り登り窯の炎を納得するまで見てるつもりらしい野木さんを置いて、薫くんと陶房へと戻った。

「嘘って。……気遣い?……そうね、嘘ね。」
薫くんのツッコミに言い訳してみたけど、すぐに諦めた。

すると薫くんは、私の頭を撫でた!

「嘘まで優しいな。桜子は。」

「……。」

やばい。
ドキドキする。

薫くん、何だか……パパみたい。

優しい。

甘~い。


「うーん。敵は光くんより、薫くんやったかな。」
どこから見てたのか、朝秀先生がそんなことを言いながらやって来た。

「敵……。」
薫くんが失笑気味にそう反復した。

「もう。朝秀先生、そんな冗談ばっかり。明田先生から聞きましたよ、パリに恋人がいるから、しょっちゅう行き来してるって。」

明田先生のところにやたらフランスのお茶やお菓子があるのは、朝秀先生のお土産なんだそうだ。

でも朝秀先生は肩をすくめた。

「恋人なんかじゃないよ。……確かに、ちょっと親しい友達はいるけど、結婚したし。ほとんど、フリー。どう?俺。意外と一途やで?」

そんな風に言われても、やっぱり本気に聞こえない。

私は薫くんの腕をぎゅっと掴んだ。

「あかん。」

薫くんが私の心を代弁してくれた。

……ホッとした。

朝秀先生は、何か言おうとしたけど、結局、口を閉じて、肩をすくめて見せてご自分のアトリエへ向かった。