小夜啼鳥が愛を詠う

「……桜子の部屋、久しぶりや。」
ボソッと薫くんがつぶやいた。

「散らかってるし。……呆れないでね。」
「……いや。全然綺麗やん。」

部屋に入ると、薫くんはそう言って、私をベッドにおろした。
座ってることができなくて、私はそのままベッドスプレッドの上にへにゃっと倒れ込んだ。

「……ダメね。座薬、入れましょうか。」
ため息まじりにママがつぶやいた。

「ざやく……」
みるみるうちに、薫くんの顔が赤くなった。

やだ!
恥ずかしい!

私は慌ててお布団の中にもぐり込んだ。

「あ。じゃあ、帰るわ。お大事に。」
「……ありがとう。」

お布団から目までだけ出して、私はそうお礼を言った。

薫くんは、軽く手を挙げて、逃げるように部屋を出て行った。

「子供だと思ってたけど、イイ男の子に育ってるわねえ。」

ママの言葉が不思議に感じた。

「それでも、男の子、なんだ?」

そう聞き直すと、ママは座薬をぴらぴらさせながら言った。

「男の子よ。ママにとっては、薫くんも光くんも、男の子。はい。さっちゃん、お尻出して!」

……ううう。
嫌だけど、座薬が効くのは身をもって知っている。

私は渋々、ママに従った。



薬が効いたのか、翌朝には熱が下がった。

「さっちゃーん?大丈夫?ごめんね、僕を探してくれたんだって?」
いつも通り迎えに来た光くんが、のほほーんと、そう聞いた。

詰め襟から伸びた白い首に、夕べの光景を思い出した。

「……おはよ。光くん。みんな心配するから、これからはちゃんと連絡してあげてね。」

そう言ってみたけど、光くんはニコニコうなずいただけ。
……絶対、なんも、反省してないし。

「行こう。」
いつも通り、手をつなぐ光くん。

こうしていれば、何も変わらないように見えるのに……。

光くんが、わからない。

今までもわからなかったけれど、ますますわからない。

……別人が……彩瀬さんが取り憑いてるってことなのかな。

心配。
光くんが、心配。

光くんママは、私を心配してくれてるけど、私はやっぱり光くんが心配。

ほんとに見境なく、手当たり次第、発情しちゃうのかな。
……やっぱり、私がずっとそばにいて見張ってなきゃ!


放課後、光くんママから着信があった。
私に対する説明責任を果たしたいらしい。

てっきりどこか2人きりになれるところにでも行くのかと思ったら、パパのお店に呼び出された。
しかも、光くんママだけじゃなくて、光くんパパの頼之さんもいた。

……お仕事お忙しいはずなのに……それだけ大切なお話、ってことなのかな。

何だか緊張するわ。