小夜啼鳥が愛を詠う

「いらっしゃい。昼飯の後で、素焼きの窯入れ始めるし。空っぽの窯、見るなら、今のうちやで。」

そう言われて、野木さんはご挨拶もそこそこに、そわそわし出した。

「兄貴。こっちの野木ちゃん、絵ぇやるねんて。描かしたって。」
朝秀先生がそう言いながら、野木さんの背中をそっと押した。

……さりげないボディタッチも、リア充の証、らしい。
野木さんは多少引きつりながらも、お兄さんとお弟子さんに頭を下げた。

お茶を出してくださったお弟子さんに、持参したマカロンを託す。

……手土産は主人じゃなく奥さんに渡すって教わったんだけど、ここには奥さんはいらっしゃらないみたいだから……これでいいのよね?

「お気遣いさせてしまって、悪いね。神戸は、洋菓子が美味しいとこやなぁ。」

朝秀先生のお兄さんにそう言われて、私は慌てて断った。

「あの!すみません!それ、ご期待されるほど、美味しくないです!……ごめんなさい。」
「へぇ?」
驚くお兄さん。

「もしかして、手作り?」
朝秀先生がそう聞いた。

う……恥ずかしいかも。

「……はあ。母と作りました。……お口に合えばいいのですが……。」
「合う合う!口を合わせる!うわー、楽しみ!桜子ちゃん、お菓子、作るんや。すごいなぁ。」
そんな風に手放しで誉められて、私は気恥ずかしくて……照れた。


案内してもらった登り窯は、想像以上に大きかった。
山の緩やかな斜面を利用して、レンガのかまくらがぽこぽこと奥に並べてある。
すぐ横に、午後から窯に入れる予定の成形した土器がびっしりと棚に並んでいた。

「えーと、これから、素焼きするんですよね?それから?絵付けして、また焼くんですか?二度焼きするの?」

そう尋ねると、朝秀先生は教えてくれた。
「モノによるけど、うちの清水焼は三度は焼くわ。絵付けが二回あるから。下絵付けして、焼いて、上絵付けして、焼いて。さらに絵とか金とか施すならその都度、焼くねん。」

えー。
大変だぁ。

「だから、電気やガスで焼くヒトが増えたんだ。なるほど。」
野木さんは何度もうなずいて、それから、窯の中に入り込んで撮影していた。


お昼は、朝秀先生のお兄さんの奥さんが届けてくださったお寿司とおすまし。
野木さんと私も、ご相伴に預かった。

……寿司ネタは鮮度より熟成重視って感じだった。
おすましは、京都らしいお昆布のよく効いたおだしで美味しかった。