小夜啼鳥が愛を詠う

「オープンカーって実用的じゃないやん。うちの登り窯までに、けっこうきっつい坂があるねん。」

朝秀先生はそう言って、後部座席のドアを開けてくれた。

「どうぞ。……足元、高いから、気ぃつけて。はい。」

しかも、わざわざ手を握って支えてくれた。
うーん……ほんっと……気が利くというか、女馴れしてるというか……。


「さっき、うちの登り窯とおっしゃいましたが、共同窯じゃないんですか?」
建てこんだ街並みを抜けた頃、私はそう聞いてみた。

「お。桜子ちゃん。勉強してきてくれたんやな。ちょっと前までは共同窯を使っててんけどな、最近は電気窯とかガス窯使う陶芸家が増えて、共同窯に年一回しか火入れせんようになってしもてんわ。それで、うちの兄貴が自由に焼きたいゆーて、作らはってん。」

作った?
登り窯を、個人で?

……さすが……人間国宝の跡取りさん。
スケールおっきいわ。

「一応、清水焼になる?清水坂からかなり距離あるけど。てか、めっちゃ山奥。この車、納得かも。」
「せやろ?野木ちゃん。オープンカーやったら、虫とか、葉っぱとか、いっぱい顔に当たるで。……清水焼は、陶工の移住で範囲が広がってん。清水坂、五条坂から、馬町、泉涌寺、山科の清水焼団地を経て、宇治の炭山、亀岡、信楽。まあ要は、清水焼の陶工に師事することが大事なんやな。」

朝秀先生はそう言ってから、振り返った。

「野木ちゃん、絵ぇ描けるんやろ?絵付けするか?」
「え!」
突然のお誘いに、野木さんは珍しくたじろいだ。


本当に山あいに、陶工の村はあった。
「ここから、まだ上がるし。」

静かな村を通り抜けて、さらに急坂を車は登った。
たどり着いたのは、大きな屋根の山荘風の建物。

「これが、オヤジと兄貴のアトリエ。今は5人のお弟子さんが住んでるわ。その奥のちっさい小屋が俺のアトリエ。で、その上が登り窯や。」

朝秀先生はそう言って車を降りると、わざわざ後部座席のドアを開けてくれた。

「……嫌味なぐらい紳士……リア充め。」
低い小さな声で野木さんはそう呟いたけど、完全に照れ隠しだったと思う。

朝秀先生は、まずは大きなアトリエに連れて入り、お兄さんやお弟子さんに私達を紹介してくれた。

お兄さんは……朝秀先生のお父さんと言っても通用しそうな雰囲気だ。
歳の離れた兄弟らしい。