尾上の怒鳴り声が聞こえてきたあたりでこちらの教室では授業が始まった




比較的サボりやすい数学の授業は居眠りする人、携帯を触る人、意識がどこかへ飛んでいる人っと様々だ


今朝も言ったが学生の仕事は勉強なんだからせめて話を聞こう?



なんて、そういう私も話なんてそっちのけで携帯と仲良くしている1人なのだが





(翔夜:お前絶対わざとだろ!俺、国語っていったよな!?)


(茜が画像を送信しました)


(お母さん:今日は夕飯二人で食べて)




知らない間に溜まっていた愚痴や自慢、報告などのメッセージにちょこちょこと返信を返す


めんどくさそうな人は後回しだけど



そうやって下へ下へと動かしていくと目に入ったのは"零"の名前



(零:今日は母さんいないらしいから帰りに食材買いに行こう。優葉は何食べたい?)




たまにいれてくる名前呼びは弟と意識されたくないからなのだろうか?


そして、まんまとそれにひっかかり一瞬でもドキリとする私はどうかしているとしか思えない





(零は何食べたいの?零の好きなやつでいいよ)


(零:じゃあ、優葉の作ったオムライスが食べたい)




2秒もかからず既読のついたメッセージはほんの数秒で返信が返ってきた




オムライスの単語に思わず子供かよっとツッコミをいれたくなるがここはとりあえず抑える



スラスラと言葉を繋げていると画面上に届く通知


(杏璃:ヤバイよ)




は?何がやばいの?



出てきた通知をタップすれば弟の画面から杏璃の画面へと切り替わる





「松崎さん。校内での携帯の使用は禁止ですよ?」



「え、あ、あぁ。すいません」





なるほどね。



少し甲高い声に名前を呼ばれこの場から消え去りたい衝動に駆られる




もっと早く教えてくれても良かったと私は思うよ杏璃さん!!!


遠くからこちらに憐れみの目を向ける友人に決して届かないであろう言葉を心の内で叫んだ




「放課後まで先生が預かります」


「わかりました」





電源を切る間もなく取り上げられたそれの画面を見るや、数学の先生は顔を顰めた



後で、零に帰りの予定聞きにいかないとな


なんて思っているとあるひとつの机の隣で先生が止まった





「では、上村さんも携帯を渡してください」



「えっ!?なんで私?!」





そういえば最後杏璃とのトーク画面でとられたんだっけ



必死に抵抗していた彼女も証拠を突きつけられ大人しくアートの施された携帯を差し出す



睨みつけてくる杏璃に仲間だねっと笑顔を返した