止んでいた鈴虫の声が、一斉に聞こえ始めた。



あーあ、全部夢だったらよかったのに。

鮮血に濡れた草に足を滑らせながら立ち上がる。

「ねー、ほんとに死んじゃったワケ?」

足先で目の前の肉塊を蹴飛ばしながら呟く。

返事はなくて、当たり前。


あっけないねぇ。


長ーい夜、もうちょっとくらい楽しませてくれなきゃさぁ…。

また退屈しちゃうだろ…?


ザク


裏切るヤツは、


ザク


みんなつまんねーヤツだなぁ。

「止めたら?
泣いてるじゃない」

無言で骸を切り刻んでいた俺に、鈴のような綺麗な、
でもやけに冷めた声を浴びせてきたのは、

「…誰だ?」

夜闇に溶けるような、黒い黒い、少女。

「泣くくらいなら、
殺さなきゃよかったのに」

俺の問いかけには答えずに、死体を見つめて言う。

「信じたかったなら、
裏切りを信じなければよかったのに」

それから、俺を見据えてくる。

頭の中に響く、響く。

反響する。

鈴のような少女の声と、アイツの…断末魔。

「夢だったら、なんて思うなら…」


本当に夢にしてあげましょうか?



暗い夜の闇が、全てを覆い隠す。

響く虫の声が、全てを掻き消す。



静かな喧騒に包まれた、深い深い森の中。