さまよう渡くん





借りていた本を元に戻し、次の巻を手に取ると私はカウンターへと足を進めた。



すると……




あれ…?


人がいる…。



カウンターのところに男子生徒が1人立っていて、なにやら本を持っている。



やば…
待たせちゃったかな…?




「すみません。返却ですか?」



私は急いでその背中に声をかけ、すぐにカウンターへと足を運んだ。



「すみません…。お待たせしま」



私はそれ以上言葉を発する事ができなかった。



だって…



だって……



だって………。





目の前には、右耳にピアスをし、少し染めた茶色の髪色とは正反対で、制服はきちんと着こなしている男子生徒。




そう。


目の前の男子生徒は、千鶴の話していたあの怪談話にでてきた、“渡くん”と同じ風貌だったのだ…。




私の思考は一気に停止し、身動きが取れなくなっていた。




ど、ど、ど、ど、どうしよう…。


こ、この人…あれだよね…あれ…。



で、でも…に、似てるだけかも……


だ、だってこの世に霊とか?そんな訳の分からないもの存在するわけないし…。



だんだんと冷静になってきた私は、普通に接しようと笑顔で対応する。



「へ、返却ですか…?」



そう聞けば、相手もニコッと微笑んで本を差し出してきた。



ほ、ほら…

普通じゃない。


この人は生きてる人間だよ。

バカね。私ったら……………



……………………。



あ………れ………?




左手首に…………




ほう………たい………?




本を受け取ろうとした私の手は、そのまま硬直して動けないでいた。




こ、こんな偶然あるわけ……



ゴロゴロゴローッ!!!!!



「きゃっ!!?」



突然鳴り響く雷の音。



私はその場にうずくまる。




つ、ついてない…。



私は雷と幽霊と地震と火事と親父だけは苦手なんだよ………。




うぅ…。




「大丈夫か?」



うずくまる私の顔を、男子生徒はかがんでのぞいてきた。




「っ?!!!」




か、顔近っ……。



な、なんかカッコいいし……


って違う…!


もう無理!!!


そんなに恐怖を与えないでくれ…。




男子生徒と少し距離をとろうと後ろに下がろうとしたが、腰が固まって動けなくなった。



こ、このままじゃ殺されちゃうよ…。



涙がでそうになるのを必死でこらえながら、私はゆっくりと口を開く。



「だ、大丈夫です!へ、返却しておくので、もう帰って」




「もしかして聞いたの?怪談話。」




ドクンッ……




ほ、ほ、ほ、



本物だ……。




この人……









“渡くん”だ……。