さまよう渡くん





『ねぇ……






一緒にいこうよ……。』




そのひどく低い優しい声が、Aさんの胸に深く突き刺さった。



自然と恐怖心などは消えていた。



彼はとても優しく、皆からも信頼される人だった。


そんな彼を、Aさんは慕っていた。



だからこそ恐怖心よりも、一緒に行ってしまいたいという気持ちの方が強かったのだ。



『渡くん。』



そうAさんが呼んだときだった。



『っ!?』



彼の左手首の包帯が真っ赤な血で染まっていく。



『痛いんだ…。体が……、心が……。』



そう言って、渡くんはゆっくりとその血で染まった左手でAさんに触れた。



『わたり…く…ん…!』



どんどんとよみがえる恐怖心。



バッと腕を振り払ったAさんは、その場から逃げようと扉の方まで走る。



しかし。



ガッ。



腕を掴まれ、ひどく鉄くさい臭いが鼻に突き刺さる。



そして……








『逃がさないよ…。君は僕と一緒に逝くんだから……。』