「ねぇ、知ってる?」
「うん。知ってる。」
「いやまだ話してないでしょーが。」
そう言ってバシンッと片手で肩を思い切り叩かれた。
「もう。千鶴は叩く威力強いよ。怪力女。」
涙目でそう訴えれば、恐ろしい顔が目の前に来る。
「あん?もういっぺん言ってみろ。あんたの息の根止めてやらぁ。」
止めてやらぁって………
どこのヤクザだ…。
「ごめんなさい…。」
「よろしい。それよりもさ、怪談話があるのよ。聞きたいでしょう?」
「あー。」
「ちょっ…何してんの…?」
耳をふさぎながら叫び続ける私を、千鶴は冷たい目で見ていた。
「え?だって怖いじゃん。」
「いやいや。あんたが聞かないのに話しても無意味でしょうが。」
「大丈夫だよ。千鶴は1人じゃない。」
「……は?」
「さぁ続けて。」
そう言ってもう一度耳をふさぎ叫ぶ。
「沙希!」
ガッと手を掴まれ、無理矢理耳から手を離させられた。
「千鶴ちゃん……。」
「いい?沙希。怪談ってのはね、怖いだけじゃないのよ。自分がもしそうなったときに、どう逃げるか参考になるでしょう?だからね?聞くのよ沙希。」
「…………。」
いやいや。
ただたんに自分だけ知ってるのが嫌なだけでしょうが…。
「なに?もしかして私が、自分だけ知ってるの嫌だから沙希にも教える、とか思ってんでしょうね?」
なにこの人…
エスパー…?
「ふっ。残念だけどその考えは当たりよ。」
当たりなんかい。
「まぁまぁ。聞きなはれ。損することはないんだから。」
そう言って千鶴は不敵な笑みを浮かべると、私の両手を掴んで、頼んでもないのに話し始めた。

