子供のいる真野さんは定時で帰り、残ったスタッフは引き続き変更電話の手がかりをひたすら探し続ける。
これだけ探しても見つからないのだから諦めたいところなのだが、俺たちを見張るようにして腕を組みながら眺めている熊谷課長の威圧感がハンパじゃない。


あれ、いつもの爽やかな笑顔はどこに行ったんだ?


須和さんや大野さんたちが今日中に終わらせなければならない仕事を遅まきながら始め、俺たち若手が大量のレジュメをチェックする。
もう一体いつのレジュメなんだっていう紙さえもチェックしてしまった。
足元はダンボール箱だらけ。


時刻にして21時を過ぎた頃。


「もう私がやったって言ってもいいですか……」

「バカッ、何言ってんだよ。やってもいないのにやったなんてそんなのダメに決まってるだろ」


弱音を吐き始めた小巻ちゃんを小声で叱咤していたら、突然事務所のドアがバンッ!と音を立てて開いた。


なんだなんだと顔を上げると、驚いたことに東山さんの姿があった。


「美穂ちゃん?どうしたの?」


戸惑ったようにしながら大野さんが彼女に駆け寄って声をかける。
すると彼女は涙目で、何か思いつめたような表情で白いコートからメモのような紙を取り出した。


2人のそばに近づいた須和さんがそのメモを見たあと、ボソッとつぶやいた。


「君だったのか、電話を取ったの」


え?
電話を取ったのが東山さん?


俺の頭の中は真っ白になった。