毎朝誰よりも早く来て、こっそり清掃活動していた俺だったけど。
さすがに昨日の今日で東山さんと2人きりで顔を合わせるのも気まずいので、電車を一本遅らせて通勤してきた。
案の定、事務所にはチラホラ社員がすでに来ており、なんとなくホッとしてしまった。


「おはよー、神田くん。なんか元気ないね」


事務課の元気が取り柄の先輩、大野さんがそんなことを言ってきた。
慌てて笑ってとぼけて見せる。


「そんなことないですよ!いつも通りです!」

「そう?疲れてんじゃない?チョコあげようか?」

「わぁ、嬉しい!……って女子じゃないんですから。いりませんよ」

「あはははは」


他人にノリツッコミさせておいて彼女は笑うだけ笑っていた。
この先輩はいつも楽しそうにしているが笑いのツボが浅いのだろうか?


「神田さん、おはようございます……」


ふと背後から東山さんの声がして、急いで振り返る。
そこには気まずそうな顔をした彼女が立っていて、そそくさとお茶を差し出してデスクに置くと声をかけさせる隙も与えずにいなくなった。


コーヒーじゃなくて、お茶。
当たり前だよな。


少し苦味の効いた熱い緑茶をすすりながら、俺は昨夜の告白を少しだけ後悔した。