産まれたばかりの小さな赤ちゃんは、脆くて危うくて、繊細なガラス細工みたいなものだと思っていた。
だけど、俺の腕の中にいるこの子は、安心しきった顔で眠っているのだ。


それは自分でも信じがたい気持ちだったけれど、温かくて心をじんわり掴むような優しさを持ち、適度な重みもあって、そしてどこかしっかりした愛しい感じ。


「うん……、可愛いな……」


自然に本音を口にした。
単純に本当にそう思ったから。


そしたら、奈々の驚いた声が聞こえた。


「順?大丈夫?どうかしたの!?」

「え?何が?」

「だって…………、泣いてるから……」


は?泣いてる?誰が?
━━━━━俺が?


部屋にひとつだけ接地されている洗面台の前にある鏡に、自分の姿が映し出されていたのでそこへ目を向ける。


なんと情けないことに、俺は泣いているらしい。


「ヤバ……ごめん。感動してんだな、きっと。めちゃくちゃ恥ずかしいけど、命が生まれるって神秘的だな……」


いったいどこのナレーターだよ、ってツッコミを入れてほしいくらいのセリフを言ってしまった。
だって本当にそう思ったから。
今までだって友達の赤ちゃんに会ったことはあるし、妹なんて俺が実家暮らししている時に里帰りしてたから甥っ子の新生児期はよ〜く見てたつもりだった。


それなのになぜ涙が出たのか、自分でもよく分からなかった。
もしかしたら、今現在の俺の精神状態が以前の俺と違うのかもしれない。
理由はなんとなく心の奥底では理解出来た。