顔を真っ赤にしながらコーヒーを淹れて、熊谷課長に渡す。
彼はきっとあたしが意識していることなどお見通しなのだろう、クスッと笑うと熱いコーヒーを一口飲んだ。


「そんなに緊張しないで。休憩中は課長でも何でもなく、ただの人だ」

「は、はいっ」

「東山さんは秋田出身だっけ?ひとり暮らしと仕事は慣れてきた?」

「仕事は大変ですけど、どうにかやってます。ひとり暮らしは……完全にホームシックです……」


応接室の分をトレイに載せて、スプーンと砂糖とミルクも添える。
ホームシックだなんて本当は言うつもりもなかった。だけど実際に友達がいるわけでもないし、同期ともそこまで気が合わないからいつも1人。
そんな寂しさからそう答えてしまったのだと思う。


すると、課長の口が驚く言葉を言い放った。


「なんだ、それじゃ俺と食事でも行く?少しはホームシックも薄れるんじゃないかな。こんなオジサンと食事なんて嫌かもしれないけど」

「えっ!!ほ、本当ですか!?いいんですか!?」


すっかり興奮してしまったあたしは、準備万端になったはずの応接室用のコーヒーをこぼしてしまった。


「君さえよければね。若い子に話題を合わせられるか不安だけど」

「ぜ、全然!!大丈夫です!!行きたいです!!」


燃え上がる、あたしのほのかで淡い恋心。
それは小さくて微かなものだったはずなのに、一気に膨らんでいった。


あたしは、この人に完全に恋をしていた。