「お礼を言わなくちゃいけないのは、私の方です」


彼女はスッキリした表情で、清々しささえ感じてしまうほどに晴れやかだった。でも心なしか、どこか切なげにも見える。


「今回のことは、いい経験になりました。自分なりに反省して、自分なりに気持ちに整理つけました。神田さんが言う通り、私はいつも笑ってなんでも乗り越えてきました。だから…………」


ちょっと言葉に詰まり、東山さんの目に涙がうっすら溜まる。鼻先も赤くなってきている。
だけど、泣きそうなのに笑っていた。


「神田さん…………、私、うまく笑えてますか?」


それを聞いたら、抑えていた気持ちが溢れて思わず彼女を抱きしめてしまった。
きつく抱きしめてから、「しまった!」と我に返る。
でもやってしまったものはどうしようもない。


嫌がるわけでもなく、抱きしめ返してくるわけでもない東山さんの立場に立って考えてみると、たぶん戸惑っているに違いない。


フワッとほんのり甘い香りが彼女の長い髪の毛からして、これ以上抱きしめていたら色々と理性がぶっ飛びそうなので慌てて体を離した。
そしてその場を取り繕うように何度もうなずいてみせた。


「笑えてる。笑えてるよ。大丈夫。君は強いね」


少し困ったような顔をしていた東山さんが、嬉しそうに笑った。
その顔を見れて、心底安心した━━━━━。