「だ、あアアアアアっ!」

彼がガバッと起き上がる。

「オマエは一体、さっきから何をやってるんだっ!!」
「うう…だって…」

 彼は、フーっと深い溜め息を吐いた。

「…タバコ、吸ってくる」

ベッドを抜け、ガウンを着込む。

2、3年後、本社に戻る気満々の彼は、ヤニで部屋を汚すのを好まない。

バルコニーで、ホタル族だ。

「あ…」
思わず彼を見上げた私を、優しげな眼差しで見下ろし、撫でた。

「そんな顔するなよ、…すぐ戻ってくるから」


 
数分後。

メンソールの微かな香りを纏った彼が、そっと布団の端を捲った。

「なんだ、まだ寝てなかったのか」

また頭を撫でる。

「何なら、子守唄でも歌おうか?」

彼のよく響く声、優しく流れるテノールの、最近流行のラブソング。

甘く優しい旋律に、やがてうとうとし始める。


 愛されてる感は、充分あるんだけどなぁ。

 彼だって慣れない任地、新しいお仕事に、きっと疲れているんだね…