「ええっ」
 驚いた私に、彼は少し申し訳なさそうに頭を掻いた。

「望月興産って言ったら、提携会社ですけど…
何でまた?」
 ひょっとして……私のせい?
 などと自惚れてみたが、どうも違っていたようだ。

「いや、社長には世話になったし…だいぶ悩んだんだけど」

 身体に似合わず、モジモジしながら話してくれたことには何と、熊野さん、望月興産の専務の令嬢と交際中らしい。

「ホントに!?」
「ああ。
 向こうからもかなり強烈なオファーがあってさ…
 でも、キミのお陰で踏み出せたと思うんだ。ありがとう」
 
 照れ臭そうに笑いながら、ペコリと頭を下げた彼に、感激が止まらない。


「く…く…熊野…さぁんっ」 
「あ、トーコちゃ…」
 勢いで抱き付こうとしたところ、

「いい加減にしろっ」

 スパコーーンッ。

 気持ち良いくらい突き抜けた音とともに、思いっきり後頭部をハタかれた。

 オオカミさんだ。

「よう、裏切り者。望月のお嬢さんに言い寄るとは、やるじゃないか。目当ては財産か?ん?」
「オマエみたいなのと一緒にするな!」

「…フン、残念だな。
 お前の上にいった暁には、そのデカイ図体が磨り減るまでこき使ってやろうと思ってたのによ」
「はあぁ?寝ぼけてんのか。
 テメエの下なんかに誰がつくもんか」

 二人の間に、小さな火花が散っている。