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「聖美!」

慌てて立ち上がり、追いかけようとした勇樹を、店から聖美を追ってきた奈々が掴んで止める。

「やめて! あんたなんかに聖美を追いかける資格なんかない!」

「はぁ? 何言ってんのお前。いいから離せって!」

「行かせるもんですか! 離さない!」

もみ合う二人を要が止めた。

ひょいと、奈々を持ち上げて引き離す形で。

「お前が取り乱しても仕方ないだろう? 加藤は……どうしたんだ?」

奈々は要の言葉に大きく息を吸い、その顔を見た途端ボロボロと泣き始める。

あの気の強い小姑が泣いてる?

勇樹はただ呆然とそれを見て、要の静かな目と目が合った。

「勇樹。ちょっと待ってくれ。コイツ興奮するとこうだから」

頷いて、奈々が泣きながら何か言っているのに耳を澄ます。

「賭け?」

要が聞き取って呟いた単語に、勇樹は首を傾げた。

しゃべっているうちになおさら興奮してきたのか、奈々の声は訳もわからず大きくなっていく。

「だから! 落ち着けって奈々!」

「っだよ! しゃべってくれないと訳わかんねーよ!」