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終業式も終え、冬休みなった当日から、聖美は俄然ケーキ作りに目覚めた。

大量の生クリームに、大量の小麦粉。
今年は日本で過ごす父の教えを受けながら、大量な試作品がどんどん出来上がった。

夕飯になってしまったケーキに、聖子が呆れ顔をする。

「や~。あんた、いつになく本気モードね」

ちょっと膨らみが足りないシフォンケーキを食べながら、聖子は呟いた。

本気モードの意味が解らない。
聖美が首を傾げると、聖子は苦笑した。

「あんた、あの木村のお子様を好きなわけ?」

言われて少し考える。
話したことは確かにないが、ずっと勇樹のことを知っていた。

小学校の廊下を騒いで、先生に怒られている勇樹。
教室で野球をやって、やっぱり叱られている勇樹。
グラウンドの木に登って、下りられなくなった子猫を助けようとして、引っ掻かれても笑っていた勇樹。

ひとクラス40名前後、数百人といるいち学年の中でも、勇樹はいつも元気で、とても目立つ存在だった。

聖美は、教室から見える葉の落ちた樹木の向こうに、元気に雪合戦をしている勇樹を眺めているのが好きだった。

思えば、あの元気さがうらやましく、あの明るさに憧れていたのかもしれない。

あの笑顔は、聖美にも笑顔をくれた。

「うん。きっと……」

あの憧れは、好きだったということなのかもしれない。