「昔ね、私身体弱かったんだ」

その小さな声に首を傾げる。

「弱かった……のか?」

「や。なんかの病気だったとか。そういう訳じゃないんだけど、とにかく風邪をひきやすかったり、熱出したり……そんなだったの」

聖美はまた窓の外を見ながら、本当に小さな声で囁く。

「あー……」

そう言われれば、小学の頃から聖美が外で遊んでいるところを見たことがない。

「それで、いつも休んで、本を読んだりしてたんだけど。夏場ってけっこう外で遊ぶ子が多いでしょう?」

「まぁ、そうだろうな」

勇樹も夏場は近所を駆け巡ったり、公園に秘密基地だと言ってはダンボールの要塞を築いていた。

「その声を聞くと、うらやましくって仕方がなかったの」

「んー……。そうだなぁ。俺だったら暴れるかもな」

「だから、雪が降るのが好きなの」

それで話を締めくくる聖美に、勇樹は片手をあげた。

「タンマ。意味がわからねぇ」

聖美はいつもどおりのキョトンとした顔つきで、勇樹を振り仰ぐ。

「雪が降ると、外で遊ぶ子も減るでしょう?」

「俺はけっこう遊んでたけど」

「うん。でも、音が……なんて言うんだろう? すっぽりと家を覆ってしまう様に、外の音が小さくなるの。外の空気を遮断してくれて、優しく包み込まれているみたいで……だから、遊ぶ声もそんなに気にならなかったの」