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勇樹はスマホを持ちながら顔をしかめる。

鳴っているのは話中の『ツー・ツー・ツー』という話中音だけ。

「あー……。誰と話してんだよ!」

ブツブツ言いながら目の前の目覚まし時計を見て、22:40をさすデジタル時計に肩を竦めた。

23時になったら電話をかけない。
それは木村家の鉄則だ。下手に電話をしていると、母親が部屋まで怒鳴り込んでくる。

だから、その前に聖美の声が勇樹は聞きたかった。

「おやすみくらい、いいじゃないか」

正確には、聖美の家を出る時に言ってもらっている。言ってもらっているから、いいと言えばいい。

だが、やはり自分の自室にいる時に言ってもらう『おやすみなさい』はやっぱり違うと思う。

それが勇樹の考えだった。

「……しょうがないか」

頭を切り替えて、メールにした。

晩ご飯のお礼と、ある意味で弁当の催促。それを送信して、勇樹は布団に寝転がった。

自営でやっている銭湯の二階の東側、四畳半の少し古ぼけた部屋。

それが勇樹の部屋だった。

ほとんど使われていない勉強机には意味不明な雑誌が積みあがり、本来違う用途として買い与えられたカラーボックスの中には、ゲーム機とゲームソフトが並び、その上にはテレビがあった。

それからチラッと足元を見る。

小さな衣装ダンスと無造作に置かれた制服、それからバスケのユニホーム。
天井は、仲間が来るとタバコを吸うので、少し黄ばんでいる。もちろん母親にバレてはいけないAVは押入れの奥。

それを見て、ちょっと苦笑した。