勇樹はしばらくぽかんとしていたが、急に真面目な顔をすると、じっと聖美を見た。

「親父さんのケーキってのは無し?」

「あの、それって、差し入れになっちゃうんじゃ?」

流石の聖美にも、勇樹の言いたいことは解る。

父がケーキを作る姿も、それを可愛らしく包装する様も、容易に想像できてしまう。

そして、可愛らしく包装されたケーキが、まさか父が焼いたとは、誰にも気づかれないだろうという事もわかっていた。

「ちゃんと私が作るよ。買ったものじゃなくて、父さんが作ったものでもなくて」

そう言うと、勇樹は輝かしいばかりの笑顔を浮かべて近づいてくる。

「マジで!? やったぁ!!」

スーパーのど真ん中で快哉を叫ぶ勇樹に聖美は慌ててあたりを見回した。

「ちょっ……! 声大きいよ!」

「いや。マジでうれしいって!」

始終ニコニコ顔の勇樹に顔を赤くしながら、聖美は買い物を済ませ、家路に着いた。

それから大量に出来てしまったから揚げを、勇樹が普通にぺろりと食べてしまうのを眺め、男の子ってすごいよく食べる、と聖美は感心してしまうばかりだった。