小学・中学と一緒で、高校まで一緒とは奇遇だが、二人に接点はない。

小学と中学は別々のクラスで、そもそも聖美はもともと大人しい生徒だったので、学年一のガキ大将と話すこともなかった。

学区は同じでも、家が近いわけでもなかったのでなおさらで、それでも目立つ子供だったから、名前と顔は覚えている。その程度の認識。

電車を待つ間、いつも通りに腕時計を眺めていると、視界に誰かの靴が見えた。

ちょっと濡れたサッカーシューズ。

雪の降る日にスニーカーとは怖いもの知らずがいるらしい。

ぼんやり思って顔を上げると、そこに、にこやかな勇樹の笑顔があった。

「おはよう!」

「おはよう」

挨拶を交わすと、勇樹の笑顔が深くなる。

「なぁ。加藤」

「はい?」

「俺たちつきあわないか?」

その言葉に時間が止まった気がした。

ホームの騒音が遠くなり、聖美は時計を見るためにあげていた腕を下ろす。

「はい?」

もう一度、念のために聞き返すと、少しじれったそうに、勇樹は顔を近づけた。

「俺たち、おつき合いしないか?」

聞き間違いではなく“お付き合いしようと”勇樹は言っているらしい。

だが聖美には理解不能だった。

高校生になってクラスメートになった今でさえ、聖美と勇樹が会話するような事もない。

話したとしても、聖美が担任につかまって、プリントの回収をする時くらいだ。