聖美はその様子をただ黙って眺めて、それから手を拭いてエプロンを外し、その後の姉の動きを見つめる。

シャワーしたばかりの濡れた髪を乾かさずにまとめ、活動的なパンツスーツに身を包み、簡素な化粧を施して鏡に微笑みかける。

姉はちょっときつい感じの美人だ。
聖美はちょっとたれ目で、いつも眠そうな顔だと言われるのとは正反対で、よく親戚にからかわれる。

聖子が台所に走りこんできたので、聖美はその手に弁当を乗せた。

「いつもありがとね!」

聖子は玄関に向かいかけ、そして聖美を振り返る。

「彼氏は?」

「できない」

「早く作りなさいよ!」

そう言って聖子は慌ただしく玄関を出て行った。

後ろ姿を見送ってから、聖美は制服のネクタイを締めなおし、コートを羽織ると玄関を開ける。

ひんやりとした空気に空を見上げると、ちらちらと雪が舞っているのが見えて、それを静かに眺め、白い息に微笑んだ。

『クリスマスまでに彼氏を作れ』それが最近の聖子の口癖。

それはちょっと難しいかな。聖美はそう思いつつも玄関の扉に鍵をかけて、いつもの道のりを雪を眺めながら歩く。

いつもの駅、いつものホームに立って、いつもの電車を待つ。

これはほぼ毎日変わらない。

ホームの先でクラスメートの一団を見つけた。にぎやかに、缶コーヒー片手に騒いでいる。

その中に木村勇樹の姿を見つけた。