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加藤聖美の朝は、まず、玄関前のポストから新聞を取り込むところから始まる。

高校二年生になる聖美がそうしていると、近所の人からは「若いのにえらいわね」などと言われる。

別に褒められたい訳ではなく、まして好きでやっている訳でもないが、それが幼い頃からの習い性になっていた。

姉はいつもギリギリに起きてくるし、父はいつも書斎に転がっているので、必然と聖美がそういう事を担うようになっている。

母は……数年前に他界していた。故に、朝食を作るのも、弁当を作るのも聖美の仕事だ。

「お父さん。朝ご飯できたよ」

書斎をノックして扉を開ける。

運がよければ父は起きている。
運が悪ければ…蔵書の山に埋まっているはずだ。

父は大学で考古学を教えている。
教えているといっても、ほとんど大学にはいない。

大体はどこか外国の発掘チームに混じって働いていて、一年の数ヶ月でも家に居ればいいほうだ。

「ん~…」

駄目だ。聖美は諦めて首を振った。
こういう時の父を起こすのは一苦労する。
書類なのか、なんだかよくわからない紙の下敷きになって、なにやら寝言を言っていた。

しょうがないので一人で朝食の席に着く。

姉の聖子は、朝起こすと怖い。だからいつも起こさない。
そのうちバタバタと起きてきて、弁当片手に出社するのが関の山だ。

淡々として静寂。それが聖美の毎日で、それが嫌だとは思わない。

朝食を食べ終わり、食器を洗っているときに、聖子がやはりバタバタと二階から降りてくる。

「あ~!! 遅刻する!!」

ひと言と叫んで風呂場に飛び込むと、悪態をつきながらシャワーの音が聞こえてきた。