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静かなる丘に咲く、一本の桜の大木。

この地は二人にとって、とても大切な場所だった。

だからこそ、一時はこの世で最も栄誉なる位を受けた青年もこの地を自らの終焉の地に決めていたのだ。

傍らにある少女もまた、その意思を知っていて、それゆえにこの地へと連れてきた。

少女の長く美しい白金の髪が風に揺られ、青年はそれを眩しそうに見上げた。

その手に少女はそっと頬を寄せた。


「もう一度...今度は下界の桜の下で...」

「...うん。....うん」


それをまるで合図としていたかのように、桜の花びらが花吹雪となって天へ舞い上がっていった。


「....あぁ、綺麗だ」


少女が僅かな間瞑った目を開けると、天へと伸ばされていた手のひらは降りていた。

膝を貸している体はまるでそう、寝ているかのよう。

けれどそうでないことは他ならぬ少女自身がよく知っていた。


「......あ。......っ」


浮かんでくる玉のような涙の粒は止めどなく下に、この世で最も大切だった存在の顔に滑り落ちていくどんどん冷えていく体をかき抱き、噛み締めた唇から漏れる咽び声を必死になって押し止めた。


「こちらにおいででしたか。さぁ、私どもと戻りましょう」


しばらくそうしていた時、すぐ傍から男が腕をとってきた。

動こうとしない少女に焦れたのか、傍にいた屈強な男達に両側から挟まれた。

それでも動こうとしない少女に周囲の男達は皆こぞって眉を顰(ひそ)めた。


「.........さない」

「はい?」


低く呟かれた声を誰も聞き取ることができず、首を傾げあっている。俯いた少女は口を開いた。


「私は、赦さない」


その言葉早いか、周囲が眩い光に包まれるのが早いか。

光がやんだ時には一帯が少女と青年の骸以外“無”と化していた。


「      」


青年の名を呟いたかと思うと、少女もまたパタリと地面に倒れ伏した。

これはとある二人の前世の話。


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