「なんでもないわけないでしょ…。」


「舞梨奈は心配しなくていい。」


「どうして辞めちゃうの?」


「ほんとになんでもないから。」


「お兄ちゃん!」


「.....」


私に背を向けているお兄ちゃんは、黙った。



「……会社で何があったの…?」



「……最近、ずっと失敗続きで、どうしてか分からないけど、仕事が上手くいかないんだ。辞める理由はそれだけじゃない。佐野さんが逮捕されて、佐野さんと一番関わりのある俺が会社にいる限り、世間はここの会社を注目し続ける。このままいたら、会社に迷惑かける一方だ。だから、辞めざるを得ないんだ。でも、心配ないし、舞梨奈には関係ないから。」



「関係ないってなに…。お兄ちゃんが辞めること知ったら、佐野さんきっと悲しんじゃうよ?
大事な部下だったお兄ちゃんを佐野さんは簡単に退職を許すはずない。」



「例えそうだとしても、もう佐野さんは……もう佐野さんは会社に戻れないんだよ。