「どうしたんだよ、何かあったのか?」


真珠が泣きながら俺にしがみついて離れない。


背中をポンと叩くと、ゆっくり顔を上げて、言った。



「おにーちゃんは人間に悪いことなんて、しないよね!?」




…………!


一瞬、目の前が真っ白になった。



「……なんだよ急に」

「おかーさんが、これ持ってきた」


真珠は、一冊の絵本を出した。


タイトルは…《天使と悪魔》。



恐る恐るページをめくる。



それは、優しい顔をした天使と、怖い顔をした悪魔の話。


優しい天使は人間をいっぱい幸せにしてる。

だけど悪魔は悪さばかり。

人間に争いごとをさせたり、大怪我をさせたり、病気にしたり。



そこで天使と人間が協力して、悪魔をやっつける。


…という内容。



「悪魔が悪いことするなんてうそだよね!?おにーちゃんはこんなことしないよね!?」



言葉が出てこない。


なんでだよ。


俺は悪魔だろ?


嘘つくのなんて容易いだろ?



〝俺はそんなことしないよ〟


その一言が、なんで言えない………?