私の前から消えないで

「っ野畑!あのさ…、俺……なんだ、…事…。」

「…え?ごめん、聞き取れなかった。もう1回、もうちょっとはっきり…。」

「…俺さ!あの、野畑の」   前方にトラックが見える。冴木くんの後ろ…。

もう、冴木くんの声なんて耳に入らない。やだ、死なせない。死なない…。

死ねない!

「冴木くんっ!!」  私は、冴木くんを全力で歩道の内側へ突き飛ばす。

でも力が足りなくて、冴木くんは少しよろめいただけ。
冴木くんは驚いた様子で私の方を見る。
歩道に沿って建ち並ぶ洋服屋のショーウィンドウに私が映る。その後ろに、トラックも映る。

「冴木くん、逃げてぇーーーー!!!」

力の限り叫ぶ。

冴木くんは、その場から動かない。驚いて動けないんじゃない。
だって、顔が冷静だから。

なんで?なんで逃げないの!?事故に巻き込まれちゃうのに!!


逃げてよ!!!







「…た、のばた?野畑ー!」

「…えっ?」

気がつくと教室にいた。

「冴木くん…、おかえり。」

「…ただいま。そしておはよう。」

「あはは、おはよう!」

いつまでも、こんなやりとりが続けられると良いのに。

「行くか。」

「うん、行こう!」

そう言って私は、席を立った。