「もう行かなきゃ」

「え? もう!?…なんで!? いつ来た?」

「さっき」

「ええ!? さっき!?」

「じゃ…」

「ちょい…待っ」


──っ!


「…あ…れ…?」


夕暮れの蝉の声が耳に障る。寝汗をかいた額を拭い、汗で濡れた井草の枕を首に巻いたタオルで拭いた。

ちゃぶ台に放置したままの食べ掛けのスイカには蝿がたかっている。


「あ──…そっか、帰って来たんだ…」

呟きながら開け放した中庭を縁側から眺めた。

「今日はお盆じゃん…」


七年も前に高二で死んだ四つ上のマー兄ちゃんの夢を見た自分が何故かむずがゆい。

大人になったマー兄ちゃんを理想で固めて夢で逢いに越させる自分の妄想力にほとほと驚く。


「マー兄ちゃん…大人になったら絶対かっこよくなってただろうな……」


大きな独り言を呟きながら食べ掛けの温いスイカにかじりついた。

「こらっ! 蝿がたかったのを食うんじゃない!」

「──!?」

襖を隔てた向こうの部屋から声がした。

誰も居ないはずの部屋の襖がすーっと開く。

「──…っ…」

「お、すごい顔で驚くな?」

「…っ……ちっ…近っ…近っ…」

「ん? 何だ? 俺の背中からチカチカ後光が射してるか?」

腰が抜けて動けない──

喋りながら寄ってくるのは紛れもなく死んだ筈のあの人。