歩きだそうとした身体は、すぐに引き戻されてしまった。
痛みを感じて振り返って腕を見れば、がっちり崎本くんに掴まれている。
そのまま顔をあげると厳しい顔をした崎本くんの顔が思ったより近くにあって、驚きすぎて何も言葉を発することができなかった。
近くで見ても、綺麗な顔。
色素の薄い瞳がはっきりと私を映していて、そんなことまでわかるほど至近距離にいるのだと実感すれば、男慣れしていない私の鼓動ははやくなってしまって当然だと思う。
「そんなふうに脅しめいたこと言うってことは、なにか交換条件があるってことだよな」
「は?」
脅しめいた……、って、放送をかけるなんて冗談なのにまさかこの人、本気にしてる?
駆け足を始めていた鼓動が一気に落ち着いたのを感じた。
崎本くんの的外れなセリフに呆れてしまって、綺麗な顔に至近距離で見つめられているのに、不思議なくらいドキドキしない。
崎本くんの秘密を口外しない代わりに飲んでほしい条件なんかがあるわけじゃなくて、ただあまりの失礼さに腹が立って思わず言ってしまっただけなのに、それすら理解してもらえてないなんて。
驚きすぎて、呆れすぎて、二の句が継げない。


