「……」
何も言えずに机に置かれた返せなかった教科書を見つめる。
電話をしてる大ちゃん、すごく嬉しそうだった。
もしかして電話の相手って……
「…希子?ちょっと大丈夫?」
気付けば部屋に友里亜が来ていた。
眉をハの字にして私の顔を覗き込む。
「あ、ごめんごめん!ちょっとボーッとしてて友里亜が来たの気付かなかったよ!」
友里亜とは家が隣であり、部屋も2階の隣同士。
しかもベランダの柵がくっつきそうなほどに近いから、互いの部屋にベランダの柵を乗り越えて行き来することができる。
だから不用心だけど部屋の窓の鍵は部屋にいない時以外は、基本開けてある。
小さい時からずっと互いの部屋を行き来して、毎日のように夜遅くまで親に内緒で話していた。
それは今も変わらない。
「友里亜はどうしてここに?」
悩んでいたことに気付かれないように話題を変える。
でも長年一緒にいた幼馴染みにはそんなこと通用しなくて。
「どうしてって…希子が窓にもたれてジッとしてるから気になって。
ヤナに酷いこと言われた?それとも…兄貴のこと?」
妹の友里亜なら、何か知ってるかもしれない。
でもそれを知ったら私はどうなる?
私は私じゃいられなくなるかもしれない。
いつもの私じゃいられないかもしれない。
「違うよ!今度の日曜日、友里亜と久しぶりのデートでしょ?
どこ行こうかなーって考えてたの!」
隠しても友里亜にはダメだろうけど、ごめん、隠させて。



