現実世界で捕まえて


「ずっと一緒に居るのが死神の使命でしょう。そんなに私が嫌になったの?」

ポツンポツンと雨が降ってきた。
今日は降る予定だっけ?
周りの景色が早回りしたように動いている。
雨の中
残されたのは私だけ。
そんなひとりぼっちの気分。

雨なのか涙なのかよくわからない。
ただ世界が水で歪む。

「違う」

「だって私の前から消えるって言った。私がバカだから愛想をつかしたんでしょう」

心と身体が苦しい。
どうしたんだろう。
天界に召されるより
あなたと離れる方が苦しい。
あなたに嫌われるのが苦しい。

裾を握った私の手に彼の手が重なり

彼の顔はさっきまでの強張った表情ではなく
何かストンと落ちたような、柔らかな顔になる。

「あなたがバカだから……困ってるんです」

激しくなってきた雨に、歩道を歩く人は走り出す。

けれど私達は向かい合い

彼が一歩

私に近寄り
そっと抱きしめ

「バカすぎて、愛しくて困ってるんです」

冷たい唇をそっと重ねた。