現実世界で捕まえて


店内はカップルで混み合ってる。

だよねーホワイトデーだもん。
今夜限りのホワイトデー限定メニューもあったし。

あーぁ残念。

可愛らしい店員さんにティラミスを2つ持ち帰りでお願いして、小さく座って待っていると

すぐ近い場所で
いつも聞いてる声が聞こえた。

その声は柔らかく優しく
『留美ちゃん』っていつも甘くささやいてる声と同じだった。

亮さんがどうしてここに居るの?

ぼんやりと思ったより近い場所にあるテーブルを見つめる私。

テーブルを挟んで亮さんと座っているのは、細身のすらっとした色白の女性。
巻いた髪がとても綺麗。
上品な紺色のワンピースを着て、自分の隣の場所に白いバッグを置いていた。

見覚えのあるバッグ。
亮さんと初めてのデート。
アウトレットで買ったブランドのバッグ。
8万円のバッグ。
私が選んだバッグ。お金を返してもらってないバッグ。

姪のプレゼントで買ったんだ。
そうか
きっとあれば姪なんだ。

それにしては年齢が私と同じくらいに見えるけど。

静かに耳をアンテナにしてピンと張ると
会話が聞こえてくる。

『いつもごちそうになってありがとう』

『いいんだよ。支払いは男の役目』

そうなの。
亮さんが支払いなの。
おじさんだから仕方ないよね。

姪っこさんにおねだりされたんでしょう。
美味しい食事を食べたいって
だから連れてきたんだよね。

何かと必死で戦うような気持ちになり
私はブラウスの下にいつも着けている、亮さんからプレゼントされた唯一のアクアマリンのペンダントをギュッと握った。