死神は興奮冷めやらぬ群衆からスッと抜け、ひとり歩き始めた。
私は後ろを追いかけて彼の横に並ぶ。
その横顔には表情が無い。
長いまつ毛が印象的だ。横顔も綺麗だね。
「怒ってる?」
恐る恐る聞いてみた。
「何がです?」
歩くペースが速い。
機嫌悪そう。わかりやすいヤツ。
「自分の為に使わなかったから」
「別に僕は関係ないので」
「でも嫌な顔してた」
「僕がどんな顔をしても関係ないでしょう。あなたの願望なんでしょう」
「そうだけど」
足が長いから?
背の低い私から見れば競歩状態なんですが。
「宝くじ当たってよかったね。これであの人も、生きる希望が出てきたはず」
私のしゃべりを無視するかのように、死神は無言で歩く。
嫌われちゃったかな。
雰囲気の悪さと早歩きに息が切れ、私は立ち止まって彼を追うのを止めた。
にぎやかに人が流れる街並みで
ぽつりとひとり残されたよう。
どうしようか
コーヒーでも飲んでから帰ろうか。
2つ目のお願いを叶え
人を救ったけれど
なぜか心は晴れない。
もちろん後悔はしてない。
お願いをせず、目の前であの男の人が飛び降りたらって思うと、助かってよかったって思うけど。
なぜか
飼い主に怒られた仔犬気分。



