現実世界で捕まえて


「抱き合ってる所を悪いんだけど」
給湯室を覗く影は、チャコールグレーのスーツを着た平野課長だった。

「僕も会議室に入るから、お茶はあっちに運んでもらっていい?」

ハグする私達を見て楽しそうに言う。

「もちろんです」
私は桜子ちゃんから離れ元気に返事をして、その後ろ姿を見送った。

あぁカッコいい。
ガッチリした身体でスーツが似合う。
爽やかで笑顔が似合って
仕事ができて
優しくて楽しくて人当たりが良くて
素敵な人だなぁ。

「留美」

さっきまでのテンションはどこへやら
桜子ちゃんは冷たい声で私の名を呼び

「あいつはダメだよ」
吐き捨てたようにそう言った。

「なんで?常務のお嬢さんとお見合いするから?」

本社の常務のお嬢さんとお見合いするなら、庶民の私では勝てないものね。

「違うって、平野課長は悪い香りがプンプンする」

「悪い香りって?どこが?あんな爽やかで優しい人が?」

「留美。目を覚ませーーー」
桜子ちゃんの手が私の肩を強く掴んでブンブン揺らす。

「あんたは優しくてとってもいい子なんだけど、人を見る目が無い。悪い男ばっかり好きになっちゃうし、利用される確率が多い」

ハッキリ言ったね。

「私が寿退社しても、しっかり頑張るんだよ」

桜子ちゃんの真剣な目に思わずうなずく私。

大丈夫よ桜子ちゃん。

あと半年の命だから私。