現実世界で捕まえて


時間ギリギリで会社に到着。
あわてて事務服に着替え、今日はお茶当番だったのでそのまま給湯室にダッシュする。

「珍しく遅かったね」
同じお茶当番の同期が湯のみを並べていた。

「ごめん。寝坊した」

「多田部長と吉田係長は会議室だって」

「わかった。私が運ぶ」

私の職場は全国的に有名な大きなハウスメーカーの……子会社。
主に建築資材を取り扱っている。総勢30名の中小企業。
女子は8名。
いつも2人で組み、交代で朝のお茶当番と電話番などをやっている。

私のペアは同期で仲良しの桜子ちゃん。
性格が顔に出ているようなキリッとした美人で、強くたくましい。
ちょっと抜けてる私にとって、ありがたい存在。

「ちょっと見てくれる?」
桜子ちゃんは細く綺麗な指をサーッと私の目の前で踊らせた。

するとその左手の薬指にキラキラと輝くシルバーのリング。

「おおおーーーっ!」
私は彼女の手を引っ張り、自分の目でガン見。
左手の薬指って
桜子ちゃんとうとう例の彼と?

「秋に挙式でもするかーって話をしてる」

「おめでとー!」

「ちょっと留美。危ないって」

狭い給湯室で私は桜子ちゃんに抱きついた。

朝から嬉しいニュースは心が弾む。

「おめでとう」

「ありがとう」
いつもクールな桜子ちゃんの頬が、名前の通り桜色に染まる。

「挙式には絶対来てね」

「当たり前でしょう。呼ばれなくても行くよ。おめでとう」

もう一度ギュッと桜子ちゃんにハグしながら
ふと思う

秋には私は居ないんだ
桜子ちゃんのドレスは見れないんだ……って、急に思ったら、今度は悲しみのどん底に落ちてしまった。