現実世界で捕まえて


半熟加減が絶妙な目玉焼きを食べ
お弁当を持たされて「行ってらっしゃい」言われた。

奥さんみたい。

「あと4つ。早く考えて下さいね」

「はーい」渋々答えたら

「『はーい』じゃなくて『はい』でしょう!」
朝っぱらから怒られてしまった。
いや超ウザいしこの男。

「はい。行ってきます」
逃げるように部屋を出ていつもの通勤路に向かう。

今日も寒い。
コートの上からストールを掛け直し、ピリッとする冬の空気を肌で感じる。

来年の冬を
私は感じる事はないんだね。

仕方ないじゃん。私は昨日もう死んでるんだもん。
私が死ななきゃ、あの小学生が死んでしまう。
私なんて彼氏もいないし
平凡な毎日を過ごしているだけだもの。
別にこの世の未練なんてないよ。
憧れていた平野課長も常務のお嬢さんとお見合いするし
ほら、5つのオプションまで人生のラストに付いてきたし
嫌味な死神も付いてきたけど

足を止めて空を見上げる。

神様。

本当は死にたくないかも私。

割り切ろうと思ってたけど
一晩寝たらまだ未練タラタラかもしれない。

早く運命を受け止めて
素直に死のうと思うようにならなきゃ。

深いため息をついてから
ふとコンビニのATMの看板が気になり
昨日死神からもらった無制限キャッシュカードを思い出す。

私はコンビニに寄り道をした。