でも久瀬が好きだと言ったとき、

下梶は泣きそうな顔をしていたから。

それなら俺が奪おうか、とも思った。

けど、

「杉浦君」

「…えっ?なに?」

急に話しかけられて少々驚きながらそう答える。

「あの…ありがとね。ほんとに」

…ほら、こうやって俺に向かって、

こんなきれいな笑みを見せるから。

だから、

一緒にいるだけでその笑顔を隠しきれなくなるほどのやつといてほしい、

なんて、そう思うから。

「いーえ」

俺は笑顔でそれだけ言って、

下梶の隣をいつもよりゆっくりした歩調で歩いた。