優木くんはそう言い残し、おばあさんの家を出て行ってしまった。

慌てて追いかけるけれどもそれを美津子さんに止められてしまう。ちょっといいかな?と言われ、私はその場に残ることになった。


「あの子は、一番ばあちゃんと長く過ごしてきたからね。私も、みちるも働いていたし、幼稚園に入るまではずっとばあちゃんと祐の二人だけだった。だから、思い入れが強いのはわかる」


「そう、だったんですか」


「そう。でも、ばあちゃんはもう祐の知ってるばあちゃんじゃないし、戻ることもない。記憶の中にあるばあちゃんのままでいてほしいから私はあえて、祐にばあちゃんとのこれ以上の繋がりを持たせなくないんだよ」


その言葉の意味があまりにも深すぎて、返す言葉が出てこない。これから先、優木くんが見る現実はきっと大好きなおばあさんの姿ではない。

だから、それを美津子さんは見せたくない。でも、優木くんは大好きなおばあさんだからこそ、忘れても、覚えていなくてもそこにいるだけでいい。


美津子さんの気持ちも分かる。優木くんの気持ちも痛いくらいに分かる。私は、どうすればいいんだろう。



「葵さん、祐を説得してくれないかな?多分、私が何を言ってもあの子は自分の意見を変えることはない。頑固なところがあるからね」

「わ、私がですか?」


「頼むよ。私もこの件は譲れないんだ。祐とあんたの大事な晴れ舞台に泥を塗るようなことしたくない。だから、お願いします。祐を説得してください」