「なぁ、篠宮。ちゃんと答えてくれよ。さすがに顔が見えなくても一応プロポーズしたつもりなんだから返事もらえないと俺だってへこむぞ」

「け、結婚だよ。結婚ってそんなすぐに決断できるものでもないし、それに、優木くんはそんな結婚でいいの?」

「言っただろ?篠宮なら知らないやつでもないし、良さは分かってるって。篠宮はどうなんだよ?俺のこと知らない?」

「知らないわけないよ。入社してずっと同期でやってきて企画がなかなか通らない私を励ましてくれたり、優しく接してくれたり。それに仕事だって出来て周りのみんなからも好かれていて、本当に尊敬している」

「だったらいいだろ?大体、お前これからどうするんだよ?貯金も全部奪われて明日からもまた食わないつもりかよ?そんな姿、俺は見たくない。俺が嫌じゃないなら結婚しよう」

「そんな言い方、ズルイよ」

パッと海沿いを通りかかった一台の車。その車のテールライトが一瞬だけ私たちを写した。

優木くんの真剣な表情が見えた。いつの間にか回されていた腕は離され、その手は私の頬を包み込んでいた。

視線が重なって軽く頷くことしか出来ない。そして、近づいてくる優木くんの顔。キスされる。咄嗟に目をつぶった。でも待ってもキスはない。


恐る恐る目を開けると彼はコツンと額をぶつけてそっと彼は呟くように言った。


「幸せに、なろうな」