結婚して妻となったトリアに、俺は愛をささやいたことが無かった。

好き、とか、そういう感情が欠落していたのか
愛し方がわからなかったのか…

それでもトリアは辛抱強く俺の身の回りの世話をして、
天気が良い日には俺を庭に連れ出し一緒に散歩した。

何を話したのかは覚えていない。


結婚して数ヶ月が経ったある日、
トリアが本を読む俺の側に来てひざまずいて言った。

「ねぇ、エルナー様。私、子供がほしい。」

「え?」

「子供の顔を見たらきっとエルナー様も忘れるわ。
ね?どうか私を抱いてください。」


忘れる…?何を…?


俺は読んでいた本を静かに閉じて近くにあった机に放り投げ
ひざまずくトリアのあごを半ば強引に持ち上げてキスをした。


抱けば良いんだろ?
さっさとこの心の穴を埋めて楽になりたい。

心の穴…?


俺にはトリアが居るのに…
どうして心に穴なんか…