足音で思わず振り返った先にいた男性はとても綺麗だった。


目を奪われるってこんな瞬間を言うんだなぁと呑気に考えていた。


長身、サラサラな黒髪。切れ長で知的な瞳にシュッとした鼻。大きくもなく小さくもない魅力的な唇。


芸能人にもこんな綺麗な男性はいないだろう。


そんな事を考えていたら男から小さな言葉が聞こえてきた。


「えっ?」


条件反射で聞き返していた。


その私の声が届いたのか男の口から言葉があふれた。


「何してんだよ。やっと見つけたと思ったらこんな所で死ぬ気か?あぁ?!答えろ!!!!」


男性の怒った声が父親と重なり、数時間前の出来事がフラッシュバックした。


「いっ、いやーーーーーーー!!!!」


静音は両耳を抑えその場にいきなり立った為バランスを崩し後ろへと倒れる。


そこは奈落へと落ちる空間。


フワッと体が浮き一気に落下する。