心臓が早鐘を打つ。


今死のうとしていたのに、私の今の行動は生にしがみついていた。


「ふっ、死のうとしてたくせに必死にこっちに戻って来るお前は死ねねーよ」


やけに冷静な男の声がまたしも話しかけてきた。


振り向いて確認したいけど確認できなかった。


カチッ


音とともに息を吐く音。


おそらくタバコでも吸い出したんだろう。


「おい、女。ここは俺のビルだ。死ぬなら他当たれ。迷惑だ」


「……だ…ら」


「あぁ?」


私の場所をこの人に奪われる。例えこの人の建物だとしても私には唯一の場所。


自然と涙が出てきていた。


「こっ、ここは…大好きな…私の唯一の場所だから」


50センチ弱の生と死の狭間の淵に座り込んだ私は精一杯声を出した。